常世国往還記

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2005/09/05(月) 15:03:33



愛の続き(book)
イアン・マキューアン(1997年)
小山太一訳 新潮クレストブックス 2000年
愛についてのややこしい考察です。

著名な科学ジャーナリストのジョーは、同棲中の恋人クラリッサと訪れた公園で、気球の事故に遭遇します。ジョーの目の前で、子どもを乗せた気球が、誤って浮上しはじめてしまったのです。ジョーを含め居合せた男数人が、気球を止めようとぶらさがりますが、力及ばず、皆があきらめて手を離した中、最後までロープを放さなかった男が、空高く上昇した気球から力尽きて墜死してしまう。(皮肉なことに、子供はその後、自力で気球を操って助かります。)

この悲劇的事件以来、ジョーは、己の無力感にさいなまれ、鬱状態になりますが、ジョーと同じく手を離した一人である青年パリーは、運命の冷酷さに対するおののきと、死んだ男を救いたかったという強烈な願望を、何故か歪んだ形でジョーに向けるようになります。

「あなたは僕を愛している」
「あなたは救いを求めている」

唐突にジョーの前に現れたパリーは、何の根拠もなく断定し、
「僕はあなたを救いたい」
と一方的に宣言します。

一体なんなんだ、これ。愛の告白??
なんで俺? ホモっ気なんて全くないし、どこから見てもさえない中年男なのに!

しかし、ジョーがどんなに否定しても、パリーは彼をつけまわすのを止めません。
ただでさえ、事件のショックで不安定になっているところへ、追い討ちをかけるようなストーカーの出現。しかも男!(といっても、いわゆる同性愛とはちょっと違うようなのですが。)
動揺しまくるジョーの言動は、次第に支離滅裂になってゆき、相思相愛のはずの恋人との間にも小さなひびが入り始めます。


ストーカー特有の一方的な愛。パリーの創作した愛の妄想世界のなかで、ジョーは一つの役柄を押しつけられてしまっています。
パリーはもちろん常軌を逸していますが、しかし、このような愛のかたちは、程度の差こそあれ、正常な精神にも存在するのではないか。

人は、一人一人が、脳に司られる閉じた精神世界を築いています。だから、誰かを愛するということ、それは、自分自身の世界の中で、自分が勝手に思い描いた相手の虚像と、愛の物語を演じることに過ぎないのかもしれない。
まるで子供たちのごっこ遊びのように。

クラリッサに対するジョーの態度、すれちがうクラリッサの気持ち、あるいは、気球から落ちたローガンの妻が亡き夫に抱く疑惑。人が外部に背を向け、自分ひとりの世界に内向するとき、愛する他者のイメージは現実のすがたから遠ざかり、二つの世界は交わることなく、苦しみを伴って離れていきます。

それならば、愛とはなんだろうか。ただの個人的な幻想なのか。それとも、たまたま役者同士の方向性が一致して成立する三文芝居なのか。
ストーカーの一方通行の愛と、夫婦や恋人の愛の世界は、どこが違うのだろうか。愛の成立する条件とは、愛の継続する条件とは何だろうか。

この問いに対する答えは、皮肉にもパリーが与えてくれているようです。
愛の成立条件は「宥し」。互いの世界を理解しようと努め、互いの世界を許容し、相手の中の、少しずれた自分の姿をも許容すること。
そして、同じ物語を共有すること。

同じ経験を共有しながら、パリーの叫びを拒絶し、宥しを与えなかったジョー。
クラリッサの言うように、ジョーがパリーを(心理的に)受け入れていれば、パリーは狂気に呑まれずに済んだのでしょうか。クラリッサとパリーが両側からジョーの手を取るかたちで、三人は水の分子のように安定した関係を築けたのでしょうか。

最後に、付録のように、精神科医の視点からこの物語が淡々と語られます。
愛も宥しも入る余地の無い冷徹無比の客観的分析には、医学的な治療の可能性はあっても、幸福な解決など無いということのようです。


クラリッサがキーツの研究家という設定で、随所にキーツに関する記述があります。きっとこの小説の進行と何らかのかかわりがあるのでしょうが、キーツをほとんど知らない私には読み取れず、残念でした。


(追記)映画化されたようです。日本に来るのかしら。複雑な話なので、映像化は難しそうですが、どんな作品になっているのでしょうね。

(関連)「情事の終り」G.グリーン



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