常世国往還記

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かなわぬ想い

2006/06/07(水) 17:44:23

令嬢クリスティナ(book)
ミルチャ・エリアーデ著 / 住谷 春也訳 作品社 1995.2


恋するサンダ嬢に結婚の申し込みをするため、田舎の屋敷を訪ねた青年画家エゴールは、魂の抜けたような母親と、異様にませた妹シミナ、そして陰気な使用人たちに出鼻をくじかれます。
当のサンダ嬢本人も、町で暮らしていた時の陽気でおきゃんな彼女とは別人のように沈んだ様子で、エゴールを戸惑わせる。

淋しい生活がそうさせるのか、気味の悪い昔話ばかりを好み、大人の気持ちを見透かしたような毒のある台詞を平然と吐く幼いシミナ。彼女は、30年も昔に農民暴動の犠牲となった伯母クリスティナを熱烈に敬愛していて、本気なのか冗談なのか、会ったこともないはずの伯母が、まるで今も生きているかのようにふるまいます。
それと呼応するように、屋敷の周辺には、若い女の薄ぼんやりした影や、誰ともつかぬものの気配が見え隠れし、家畜の全滅、蚊の異常発生など、不吉な出来事が相次いで起る。
やがてエゴールは、クリスティナに関する陰惨で奇怪な噂話を耳にします。


ルーマニア名産バンパイアストーリーです。史実にからめてあるところがおもしろい。クリスティナ本人にまつわる噂話はもはやフォークロアの域で、実際の出来事と、死霊となったクリスティナの所業とが混同されているようです。

生前の彼女は言い伝えのような残酷で淫奔な悪女だったのか、肖像画や家族の話どおりの愛らしく清らかな乙女だったのか。それは最後までどちらともわかりません。
死後の彼女もまた、神にそむく存在である反面、金星の精にたとえられる聖性の持ち主でもあるという、相反する二面性をそなえています。
強引にエゴールを求めるクリスティナの情熱に、伝説を肯定する側面があることを否定できない一方で、また全く別な裏の事実があるのではないか、との疑いも消えないのです。
唯一彼女を守るべき人間に裏切られ、まだ恋も知りそめぬ若さで、興奮した農民の暴力の犠牲になった無力な少女の恨みが、悪霊としてのクリスティナを生んだのかもしれない。
この、聖女とも悪魔ともつかぬ複雑な陰影が、クリスティナの精神的な魅力になっています。


他のエリアーデ作品同様、主人公はこの世と魂の世界を行き来しますが、当初は夢と現に分かれていたその境目が、次第にあいまいになっていく。と同時に、フォークロア的な時間の混乱が、現実を侵し始めます。
クライマックスではクリスティナの命を奪った農民暴動が再現され、現在の時間が過去の出来事をそっくりそのままなぞっていく。
狂おしいまでに生を希求する思いが招いた回帰の物語の中で、登場人物はそれぞれ象徴的な役割を担って、筋書きどおりに破滅をむかえます。


ところで、このお話では、ありがちな吸血鬼化=噛み傷による肉体の変化とは違い、主に死霊によって精神的に支配されることを条件としているようです。
これが特に顕著なのはシミナで、クリスティナの意思が乗り移った美少女は、処女でありながら全く処女らしくなく、かえって当のクリスティナ自身よりも淫靡な雰囲気を漂わせています。

このゴスロリフリーク垂涎の的みたいなエロ怖いキャラクターが原因で、本書の出版はかなりの物議をかもしたそうです。
まあ、ポルノと紙一重ではありますけれども、シミナの発散する暗い色気と大人顔負けの蠱惑的な態度は、ロリータ趣味に見るような異性の欲望の投影ではなく、彼女をあやつるクリスティナの情欲の変奏である点が、卑近なエロとは一線を画しているところではないでしょうか。


 
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