常世国往還記

本と映画のノート



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あなたは誰

2005/12/02(金) 11:00:26

パイロットの妻
アニータ・シュリーヴ〔著〕 / 高見 浩訳
新潮社 (2005.12)
通常24時間以内に発送します。

ストーリーより何より、ひりひりするほど微視的な描写によって読ませてしまう本があることを、久しぶりに思い出しました。

ヒロインキャスリンのもとに、ある朝突然もたらされた夫の訃報。
パイロットとして搭乗した飛行機が原因不明の墜落事故を起こしたのだ。
整備不良? 操縦ミス? やがてボイスレコーダーが発見され、突如浮かび上がる夫の自殺説。まさか。何故? 混乱する彼女の前で、夫の隠れた二重生活が徐々にヴェールを脱ぎ始めた……。

という、ミステリとしてはありきたりな展開がこの小説の見所ではありません。
キャスリンが、夫ジャックの死を正面から受け止め、苦悩の末に乗り越えていくまでを、意識の移ろい、五官を総動員した微細な記憶によって織り上げていく、その手腕が実に見事なのです。
特に冒頭の、事故の知らせに茫然となったキャスリンが、事態を受け止められずに、あちこち気を散らしながら、でも時間の経過とともに少しずつ逃げ場を失って、カタストロフ一歩手前で必死にこらえるあたり、あまりに身につまされて、読み続けるのがつらくなるほどです。

ヒロインを取り巻くのは、かつて一人息子と嫁の事故死を乗り越え、孫のキャスリンを細腕一本で育て上げた強靭な祖母ジュリア。
キャスリンとジャックの一粒種で、こてこてのお父さん子、精一杯の突っ張りもかえって子供っぽくもろい印象を与える、今時の十代の娘マティ。
乗員組合から派遣された、マスコミ対応兼なぐさめ係でありながら、深い人間的な共感から、仕事を超えて、静かに誠実にキャスリンたちを支えようと努めるロバート。

そのほか、ほんの端役に至るまで、簡潔ながら人となりが明確に表現されている中で、夫のジャックだけ、輪郭が奇妙にぼやけています。
キャスリンが、たくさんの思い出を並べてみせても、左右で色の違う瞳(スクレロフォビーというのでしたっけ。ハスキー犬によく見られますね)とおなじように、生き方も性格もはっきり見えてこない。
穏やかなようで激情家、慎重なようで衝動的、率直に見えて、実は秘密主義。折々ほの見える数々の矛盾点。けれど、波風を立てたくない家族の日常生活に埋没して、追及されることのなかった夫の真実。

夫の二重生活というストーリーで思い出すのが、松本清張の「ゼロの焦点」です。
しかし、二作品は、主人公夫妻の歴史の量において、決定的に違っています。
「ゼロ」の妻は、見合い結婚をしたばかりの夫と、ごくわずかな時間しか共有したことがありません。「夫の隠された姿」に受ける心理的な動揺は、単に夫にまつわる謎を解き明かすための動機としての役割。だって、まだお互いよく知らなくて当然ですものね。
したがって、「ゼロ」では、妻は単なる狂言回しにすぎず、「新婚数日で夫に逃げられた(?)」こと以外は、いささかステレオタイプで無個性な存在。
真の主人公は、ほとんど登場しない夫、あるいは複雑な謎そのものということになります。

一方、「パイロットの妻」では、表題どおり、主人公は妻。
明かされていく謎は、多少ひねってあるものの物語の屋台骨になるほどのインパクトはなく、それよりは、長期間営んできた夫婦生活、妻にとっては磐石と思われた夫婦の関係が、謎解きによって次々に覆るさまに重心を置いています。
これほど劇的ではなくとも、日常ありそうなお話。既婚女性が読むには、なかなかつらいものがあります。
キャスリンにはロバートがついていてくれたけど、現実にはこんな誰かがそばに居ることなんてないんだろうなあ。溜息。

以前クレストブックスで読んだものですが、文庫版が出ましたのでアップ。

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読んだ本TB:0CM:0
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