常世国往還記

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なぜ殺してはならないのか

2004/10/21(木) 21:36:19



見知らぬ乗客(book)
パトリシア・ハイスミス著(1950年) 青田 勝訳
角川書店(角川文庫) 1972年
売り出し中の建築家ガイは、郷里に向かう列車の中で、ブルーノーと名乗る若い男と知り合います。
初対面のくせに、妙に馴れ馴れしく押し付けがましい相手の態度に閉口するガイですが、振り払ってもつきまとってくるブルーノーに問われるまま、別居中の妻と正式に離婚したいこと、わがままで体裁屋の妻は、愛人の子どもまで身ごもっているくせに、なかなか離婚に応じないので困っていることなどを話してしまいます。
すると、ブルーノーはガイの身の上に異常なくらい共感を示し、唐突に交換殺人を持ちかけてきます。
自分にはけちで傲慢で人でなしの、殺されても当然の父親がいる。自分が性悪のミリアムを、ガイがブルーノーの父を殺せば、列車で偶然乗り合わせただけの二人が示し合わせたなんて誰も気付かないだろう。


変な男の悪趣味な与太話に気分を害し、聞き流したつもりのガイでしたが、ブルーノーは一方的に殺人を決行。さらに、ストーカーと化してガイに契約の履行を迫ります。
ガイは、ミリアムという障害を取り除いて以来、仕事でもプライベートでも大成功をおさめています。そのうしろめたさから、ブルーノーを無下にはねつけられず、殺す相手がどんな人物かもわからないまま殺人計画を承諾させられてしまう。



異常者のブルーノーが金持ちのボンボン、対する常識人のガイがつましい生活者。冒頭の対照的な人物像が、やがて交錯してゆきます。


あとはネタバレ感想です。


(ネタバレ)



極度のマザコン、自覚はないが完全なゲイであり、どうやら肉体的にも先天的な病気をかかえているらしい、普通の社会人ですらないはみだしもののブルーノー。
彼は、彼自身とは正反対の、社会的な成功者である野心家の父を激しく憎む一方で、父と同じように社会的な野心を持ち、成功の途上にあって、裕福な娘との結婚を控えたガイには、羨望と愛情を抱きます。
それゆえに、ガイの邪魔をするミリアムを敵視しますが、美人でわがまま、享楽的で浮気っぽいミリアムは、そっくりそのまま彼の熱愛する母親の姿。この二人は、壊れた結婚生活を長年ずるずるとひきずっている点まで同じです。

こうしてみると、愛しているはずのガイを罪に堕として逆に苦しめるのは、父親的な「正しい」ものに対する復讐とも考えられるし、ミリアムの殺害は、一種の母親殺しなのかもしれません。


一方、有能な生活者のガイ。心身ともに健康です。
他人に強く出られると逆らえず、少々優柔不断で逃げ腰のところがあるようにも思われますが、病的というほどではありません。
しかし、ミリアムの死後、あたかも悪魔と契約を交わしたかのように、次々と成功が転がりこむにつれ、じっさいにはすべて彼の実力で勝ち得たものだったにもかかわらず、彼の中で「ミリアムの死によってトクをした」という罪悪感が膨れ上がります。
やがてガイは「借りを返さなくては」という奇妙な強迫観念につきまとわれ、精神のバランスを失っていく。

彼が一線を越えたのは、一見ミリアム殺しに対する「返礼」のようですが、実は何かを犠牲にして成功した自分自身への憎しみと、共犯者ブルーノーを同じ地獄におとすための、むしろ返報としての行為だったようにも思われます。


ラスト近くで、ガイはミリアムの愛人だったオーエンと対決します。そのくだりは、オチを引き出すためにしてはいささか長く、一見蛇足のようですが、よく読めばこの小説の総括ともいえる、力のこもった部分です。

オーエンは、善悪の基準が限りなくゆるく、きわめて犯罪者的な発想の持ち主。しかし、それでも犯罪者ではなく、あくまでも平凡な(善良な?)市民なのです。
ガイ同様に、いやある意味ガイ以上にミリアムの死で救われたにもかかわらず、彼には彼女を悼む気持ちも罪悪感も、みじんもありません。

「あらゆるものが二元性をそなえている」
愛と憎しみ、友情と敵意、正常と異常、善と悪。
そして、罪すら相対的なものにすぎないのだろうか。


エンタテインメントにしては多少こなれない部分があるものの、処女長編とは思えないほどだれたところのないサスペンスです。
リプリーシリーズなど、のちのハイスミスの好んだテーマが既に顔を見せている点もおもしろかったです。


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